僕たちは日常の中で、ふと意識が今している作業から離れ、過去や未来のことを考えていることがあり、これは「マインドワンダリング」と呼ばれる自然な脳の働きです。
一見すると集中力が途切れたように感じますが、実は創造性を高めたり、脳の休息にも深く関わっている現象です。ここでは、マインドワンダリングの意味と脳科学的メカニズムから、メリット・デメリット、そして日常生活で上手に活かすための方法などをお伝えします。
マインドワンダリングの意味と脳科学的メカニズム
ここでは、マインドワンダリングの意味と、それを支える脳科学的な仕組みについてお伝えします。
マインドワンダリング(心がさまよう状態)は一般的なこと
マインドワンダリングとは、現在取り組んでいる作業や目の前の刺激から注意が離れ、意識が内面的な思考へと向かう状態を指します。僕たちの脳は、常に外の世界だけに集中しているわけではなく、時には過去の経験を整理したり、未来のことを思い描いたり、心の中を巡る活動が自然に起こります。これが心がさまよう状態、つまりマインドワンダリングです。
ハーバード大学の研究によると、人は起きている時間のうち約47%をマインドワンダリングに費やしていると報告されています。このデータからも、心がさまようことは非常に一般的で、むしろ人間の思考活動に欠かせない現象であるとわかります。
・マインドワンダリング=自然に起きる意識の内向き現象
・内省や未来想像、感情整理などと深く関係している
・誰にでも日常的に起きている現象
デフォルトモードネットワーク(DMN)との関係
マインドワンダリングは「デフォルトモードネットワーク(DMN)」と呼ばれる脳内の特定のネットワーク活動と密接に関係しています。DMNは、何も特別な作業をしていないときや、外部の刺激に注意を向けていないときに自然と活性化する領域です。このネットワークが働くことで、自己認識、記憶の整理、未来のシミュレーションといった内的な思考が活発になります。
脳科学の研究では、DMNが活性化しているとき、脳は自己に関する情報を処理したり、未来を想像したりする高度な内的活動を行っていることが明らかにされています。つまり、マインドワンダリングは単なる注意散漫ではなく、DMNの働きによる自然な脳の活動の一部とも言えるのです。
・デフォルトモードネットワーク(DMN)=安静時に活性化する脳内ネットワーク
・自己認識、記憶整理、未来予測を担う
・マインドワンダリングはDMN活動の自然なこと
マインドワンダリングが起こる主な原因
ここでは、マインドワンダリングがなぜ起きるのかを、「脳の休息プロセス」と「ストレス・疲労」という2つの視点から詳しくお伝えします。
脳の自然な休息プロセス
集中状態を長く保つには大量のエネルギーが必要で、脳は一定時間ごとに意識を外の世界から自分の内面に向けることで、無意識にエネルギー消費を抑え、バランスを取ろうとします。そのため、マインドワンダリングは、脳がエネルギーを回復させようとする自然なプロセスのひとつです。
神経科学の研究によると、脳は何もしていないときでも「デフォルトモードネットワーク(DMN)」を活性化させ、内面的な活動を行っていることがわかっています。つまり、マインドワンダリングは脳にとって必要不可欠な休息と情報整理の時間と言えます。
・集中にはエネルギーが大量に消費される
・意識を内側に向けることで脳の回復を促す
・思考がさまようのは自然なリフレッシュの一環
ストレスや疲労による影響
ストレスや疲労が蓄積すると、脳の制御機能が低下し、マインドワンダリングが起きやすくなります。例えば強いストレスを受けた場合、脳の前頭前野(感情や思考をコントロールする領域)がうまく働かなくなります。このため、注意を維持する力が弱まり、意識が無意識のうちに他のことへ逸れやすくなってしまいます。疲労によるエネルギー不足も同様の影響を与えます。
McVay & Kaneの研究によると、認知リソースが低下したとき、マインドワンダリングの頻度が高まることが明らかになっています。特に、ストレスや睡眠不足といった状況下では、脳の集中力維持機能が著しく落ち込み、意識の逸脱が増える傾向にあります。
① 過剰なストレス状態や疲労状態に陥る
② 脳の注意力が低下し認知リソースが減ると、意識の逸脱が増える
③ そのため、マインドワンダリングが頻発しやすくなる
マインドワンダリングのメリットとデメリット
ここまでお伝えしてきた内容を振り返ると、マインドワンダリングには大してメリットが無いように思えます。ですが、脳にとって重要な働きのひとつでもあり、また上手く活用するメリットもあるので、このあたりことをお伝えします。
マインドワンダリングのメリットとは? 創造性や問題解決力を高める
心が自由にさまようことで、普段は結びつかないような情報同士が脳内で結びつき、新たなアイデアや視点が生まれやすくなるため、マインドワンダリングは創造性を高めたり、問題解決力を伸ばすのに役立つ働きを持っています。意識的な思考よりも、柔軟で広がりのある連想が自然に促されるという特徴を持っています。
脳科学の研究では、リラックスした状態でマインドワンダリングが起きているとき、脳の複数領域の連携が強まり、ひらめきが降りて来る可能性が高まると示されており、また問題に直接取り組むよりも、無意識下で思考が進むことで、新しい発想にたどり着きやすくなるとも言われています。
① リラックス時に創造的な連想が促進される
② 無意識レベルで情報整理・統合が進む
③ 新しいアイデアやひらめきにつながりやすくなる
マインドワンダリングのデメリットとは? 集中力や作業効率の低下
一方で、マインドワンダリングは集中力を低下させ、作業効率が大きく下がる懸念もあります。言わずもがな意識がタスクから離れてしまうと、注意が散漫になり、ミスが増えたり、作業に余計な時間がかかったりします。
また、僕らはタスクへの集中力が切れているときには幸福感も低下しやすいとも言われています。ということは、単に作業効率が落ちるだけでなく、気持ちの面でも好ましくない影響が出る可能性につながってしまいます。
① タスク消化中のマインドワンダリングは集中力を下げる
② ミスが増えて生産性も下がるので作業完了までの時間が長引く
③ 加えて、意識が現在から逸れると幸福感も下がりやすい
マインドワンダリングを回避するには? 意識的に頭を切り替える
ひらめきを誘発したいときにマインドワンダリングになるのはメリットになります。ですが、タスクに集中したいときはデメリットになってしまうので、そのようなときはマインドワンダリングを回避するために、意識的に頭を切り替える工夫を日常に取り入れます。小さな意識のリセットを挟むことで必要なときに集中モードへ戻れるようになります。
また、マインドフルネスにおいては、自分の現在の注意状態に気づく習慣を持つことで、マインドワンダリングの頻度を減らし、集中力を持続させる効果があることが示されています。実践的なコツとしては、25分間は作業し5分の休憩を挟み再び作業に戻る『ポモドーロ・テクニック』を試すことがおすすめです。
マインドフルネスで集中力を養うという方法もあるのですが、こちらの記事で深掘りしています。

まとめ:マインドワンダリングとは
・マインドワンダリングとは、現在の作業から意識が離れ、内面的な思考に向かう脳の自然な現象であり、誰にでも起きます。
・デフォルトモードネットワーク(DMN)という脳の活動が関与しており、記憶整理や未来想像などに大きな役割を果たしています。
・脳がエネルギーを回復しようとするときや、ストレス・疲労が溜まったときに、マインドワンダリングが起こりやすくなります。
・マインドワンダリングは、創造性を高めたり新たなアイデアを生むメリットがある一方で、集中力低下や作業効率悪化のデメリットもあります。
・マインドワンダリングとうまく付き合うには、意識的に頭を切り替えたり、マインドフルネスを取り入れることが有効です。